食の安全コラム

減らない食中毒 ~ 現場から見直す衛生管理の三原則

瀧口 洋文(SGSジャパン株式会社)  2012年05月31日

 下記のグラフはここ30年の食中毒件数と患者数の合計です。毎年1,000件を超える食中毒事件が発生しており、昨年の患者数は2万人を超えています。

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(この中には微生物以外の自然毒や化学物質による食中毒も含まれていますが、患者数では圧倒的に微生物によるものが多くなっています)

 現代の日本の社会では衛生環境が向上していることから、食中毒の発生も少なくなっていると思われがちですが、統計によると30年前より食中毒の件数は減っていないのです。それどころか、年によっては増加しているということがおわかりいただけると思います。その要因として、①消費者が敏感になっているため、食中毒と判明するケースが増えた ②技術の進歩により食中毒原因菌(ウィルス)が判明しやすくなったなどが考えられ、事件数の増加=衛生環境が悪くなっているとは言えません。しかし、食品業界を取り巻く状況が厳しいことに変わりはないのです。

 特に5~9月は湿度や気温が高く、細菌が増えやすいため、細菌性の食中毒に注意が必要になってきます。微生物という目に見えない敵を相手にするので、衛生管理が適正でないと、今までは大丈夫でもある日突然食中毒事件の当事者となる可能性はあるのです。

 ただし、多くの事業者がそうであるように、適正な衛生管理をしていれば食中毒は防ぐことができるのも事実です。そこで、今回は現場でよくある“間違った思い込み”や二次汚染の危険性などをご紹介し、食中毒予防の一助となる正しい知識をお伝えできればと思います。

衛生管理の三原則

 まず、みなさんは微生物に対する衛生管理の三原則はご存知でしょうか。

  • ①持ち込まない(付けない)
  • ②増やさない
  • ③殺してしまう(殺菌・加熱)

 「それくらいは知っている」「うちはこれをもとに衛生管理をしている」という方も多いかと思います。問題はそれがきちんと現場で実行されているかにあります。筆者は日ごろ衛生検査業務に携わっており、レストランやホテル、工場といった現場をチェックさせていただいております。以前に比べると衛生に関する設備や従業員の方の衛生意識は向上しているように感じますが、いまだにちょっとした思い込みや認識の違いから危険な行為を目にすることもあるのです。以下ではその一例を紹介させていただきます。

危険な思い込みが現場には溢れている

1. 手袋

 ここのところ、工場だけではなく、飲食店でも衛生手袋を使用しているところが増えています。これは“人の手から微生物の汚染を防ぐ”という意味では、とても有効な手段です。しかし、ただ単に「衛生的だから」「従業員の衛生意識が高まるから」という理由で導入されると思わぬ落とし穴があります。

 ある飲食店で私が危険だと感じた行為は、手袋の再利用です。その厨房ではポテトサラダを混ぜるのに手袋を使用していました。混ぜ終わったあと、手袋を脱いだ形でボウルの端にかけて置いておき、小分け容器に補充するときに同じ手袋を使用していたのです。これは、三原則の①付けない②増やさないを満たしていません。食品に微生物が移る危険性はもちろん、微生物の増殖に一役買っているようなものです。手袋の中では、人の手に付着していた微生物が汗と皮脂で増殖します。その手袋を付けたり外したりして作業をすると、その人の手を介して調理器具や冷蔵庫の取手を汚染していくことになります。手袋は使い捨てが原則で、一度外したものは付けてはいけないのは当然です。

 また、あるレストランでは手荒れのある従業員の方がゴム製の手袋をしたまま、事務所や客席を行き来していて、手を洗っている様子がありません。そのまま調理に入っているようなので聞いてみると、「手袋をしているのでつい安全だと思ってしまっていた」ということでした。これでは本末転倒です。手袋はあくまでも「人の手からの微生物の汚染を防ぐ」ためにあります。手袋の外側に微生物が付けば二次汚染を引き起こしますので、手洗いは素手の時と同じタイミングで行うことが必要なのです。さらに、手袋は着用している時間が長くなると手袋の中で微生物が増殖しますので、できるだけ頻繁に交換したほうが良いでしょう。

(手荒れや保有菌については、『手荒れに潜む菌汚染の危険とその対策』もご参照ください)

2. アルコール消毒

 また、思い込みという意味ではアルコールについても同様のことが言えます。現場の従業員の方には“アルコールをしてさえいれば殺菌ができる”と思っている人が多いように感じます。もちろん消毒用のアルコールにはある程度の除菌効果はありますが、すべての微生物に有効というわけではありませんし、間違った使用法では効果がありません。

 よく見受けられるのが、「濡れた手にアルコールを吹き付ける」「アルコールをした後に布巾で拭き取る」といった行為です。前者は水分でアルコール濃度が薄くなってしまいますし、後者はせっかく除菌した後に布巾についた微生物を塗り付けていることになります。これは三原則で①付けないを満たしておらず、③殺菌を誤解していることになります。

3. カット野菜などの半加工品

 次に、半加工品に対する“過信”です。例えば生野菜のサラダは、リスクが少ないと思われていませんか。昨今、飲食店の多くでセントラルキッチンや外部の工場で加工したカット野菜などの半加工品を使用していると思います。そこで開封後の期限について現場の従業員の方に尋ねると、「大体2~3日中に使い切る」「明日のランチくらいまで」と自信のない回答が返ってくることが少なくありません。

 カット野菜などはある程度の消毒はされていて、衛生的にパッケージされていることから過信が生まれているように感じますが、そもそも生の食材という時点で無菌ということはありえません。さらに生肉などに使用した器具の洗浄が不十分なまま、あるいは間違った手袋の使用方法のまま生野菜などに接触した結果、危険な食中毒菌に汚染される可能性が高いのです。

 これは生野菜に限らずすべての食材に言えることなのですが、ホールディングタイムを設定し、温度管理、時間管理を徹底することが重要であり、基準を超えたものは廃棄や再加熱といった対応が必要です。これは三原則②増やさない管理に当たります。

二次汚染を防ぐ

食中毒の予防においては現場での間違った思い込みをなくすこと、そしてもう1つは器具や人を介しての二次汚染をいかに防ぐかも重要な課題です。

 右の表は2011年の食中毒の発生件数を病因物質別に集計したものです。微生物性の食中毒で最も発生の多い原因物質は冬場に多い「ノロウィルス」、次いで「カンピロバクター」という細菌で、例年、両者で食中毒件数の60%前後を占めています。

 汚染源としてノロウィルスは二枚貝、カンピロバクターは鶏肉や牛肉といわれていますが、実際の患者が喫食したものから特定できるケースは少なく、“原因食品不明”という例が多いのです。

 これは、それだけ“二次汚染”によるものが多いということを表しています。微生物は加熱によって死滅するのでカキも鶏肉も十分に加熱していれば食中毒の原因にはならないのですが、器具や人を介してサラダや冷菜といった非加熱食品を二次汚染することで起きているケースが原因の多くを占めると推察されます。特にサラダや生で出すメニューは三原則でいうところの③加熱ができないので二次汚染の危険が高く、①付けない②増やさない管理が重要になります。

 また、ノロウィルスは感染者からの二次汚染が多いことで知られています。人からの二次汚染を防ぐためには、手洗いの徹底は当然ですが、複数の人が触れる冷蔵庫の取手や水道カランなどの次亜塩素酸を使用した定期的な消毒も有効です。

まずは責任者が理解し、現場に落とし込んでいく

 「衛生管理の三原則」は非常にわかりやすい言葉で表されておりますが、これを確実に実施していくことが食中毒予防に有効であるということはおわかりいただけたと思います。そして、実際に日常の業務に照らして判断していくことで、リスクを減らすことにつながるのです。

 まず重要なことは責任者の方が衛生管理の本質についてしっかり勉強し理解すること、そしてさらに重要なのがそれをいかに現場に基本を理解させながら落とし込んでいくかにあるのではないでしょうか。そうすることによって、従業員の方も迷うことなく様々な場面で適切に対応でき、ひいては事業所全体の衛生環境の向上に繋がるのではないかと考えます。

 以上、微生物抑制手段の検討についての一助となれば幸いです。

執筆者プロフィール

瀧口 洋文(SGSジャパン株式会社) 

SGSジャパン株式会社  CTS-ラボ/ケミカルラボラトリー。
2006年よりSGSジャパン株式会社(スイスジュネーブに本社)において、グローバルチェーンの飲食店、ホテル、百貨店、食品工場などの衛生検査業務に従事。現在は、同社マイクロバイオラボラトリー 衛生検査チームリーダーを務める。

<SGSジャパン株式会社>
1878年に設立されたSGS(Société Générale de Surveillance)グループは、約64,000名の従業員とともに、1,250以上の事務所と試験所を世界中に擁する最大規模の検査、審査登録機関です。SGSジャパン株式会社はSGSグループの日本法人です。

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