食の研究所

6次産業化にカリスマはいらない

菅 慎太郎(株式会社味香り戦略研究所)  2014年10月22日

地方活性化の有力な手段の1つとして「6次産業化」が叫ばれている。6次産業とは、1次産業としての「農業」、2次産業としての「工業」、3次産業としての「サービス業」を全部足す(場合によっては「掛け合わせる」とも言われている)と「1+2+3=6次産業」となることからそう呼ばれている。農水省では、これを「農林漁業生産と加工・販売の一体化や、地域資源を活用した新たな産業の創出を促進する」と定義している。2010年12月3日には、「六次産業化・地産地消法」が公布され、農水省はその事業計画を認定し、農林漁業の振興を加速させようとしてきた。直売所や道の駅、漁協直営のレストランなどが分かりやすい例にあたる。

農業によって得られた生産物を素材としてそのまま流通、販売するのではなく、加工や飲食店でのサービスとして付加価値をつけ、収益を増やそうするのは理解できる。いくらきれいごとを言っても、結局のところ「儲かるかどうか」が最も端的で客観的な農家や畜産業、漁業への評価なのである。しかし、定年退職後のサラリーマンが新規就農しても事業として成り立たせるのには困難を伴うように、産業で培う経験や技術、ノウハウは早々に乗り越えられるものではない。それぞれの産業には「専門性」があり、「専任」することによって効率や品質は向上していくからだ。そう考えると、「6次産業化」を実現するためには、各々の分野に精通した「高度な人材」が必要となってくることが分かる。

B級グルメでは地域を救えない

90年代のバブル崩壊以降、地方経済は加速度的に衰退し、どこもかしこも「シャッター商店街」と化している。地方では人口減少と高齢化が顕著だ。地域の担い手としての「生産年齢人口」が増えない限り、いくら補助金を積み増したとしても、地域だけで町の活性化を実現していくことは困難になっている。そんな中、「まちおこし」の1つとして「B級グルメ」が持てはやされ、自治体や農協、漁協までもが参画して注目を集めた。しかし、蓋を開けてみれば、「挟む」「乗せる」「かける」だけ、といったシンプルなアイデアが多く、料理としても、やきそばやコロッケ、ハンバーガー、カレーなど、その地域ならではの特色が感じられないものが多い。

しかも、「未利用部位を利活用したい」という“下心”で開発したものが多く出品されるなど、設立当初の志とは異なり、ネタ不足感が否めない。「地域の食は、その地域の農村漁村で得られる旬がもたらす」のだとすれば、素材や歴史を都合よく活用して地域の名物にしようとしても、人の心を揺さぶることは難しい。結局、B級グルメの多くは、いまでは一過性の「ブーム」に成り下がってしまっている。本当に必要なのは、「地域の食」を外部視点で「発掘」することである。そして、素材と技術と旬から生み出される食、つまり「A級グルメ」こそ、時間をかけてでも地域は開発すべきなのである。

農家が出向くマルシェに未来はあるか

大きな公園や都会のビルの一角で、生産者が野菜を直売する「マルシェ」が多く開かれるようになった。「産地直売」「生産者と直接対話」といったキーワードが人を惹きつけている。都会に住む人は、その野菜を「買うことそのもの」が「自然を愛するライフスタイル」の実現になると思っているかもしれない。農家にとっても消費者と対話することは刺激や気付きがあることだろう。

けれども、農家が消費者からの「来週も来てね!」「来月も来てね!」との要望に応えて、年間を通してマルシェに通いつめるようになったら、本業の「農業」の時間はどうなるのか。生産地とマルシェが近いのならまだしも、頻繁に遠方に出かけて本業を圧迫するようになったら、それこそ本末転倒だ。流通・小売を省いて「直売」することこそが正解だとするトレンドがあるが、本来の目的から外れていなければ、流通・小売は決して悪い存在ではない。消費者と対面し、反応を農家にフィードバックする一方で、生産者の声や思いを消費者にも伝える。そうした「媒介」機能が働くのであれば、流通・小売は存在意義を失うことはないだろう。そもそも、流通・小売への批判が上がるのは、旬などおかまいなしに「チラシの印刷都合」や店頭演出に合わせて生鮮品を売るからだ。現場の裁量が本部に集約された結果、「サラリーマン化」してしまったバイヤーにも原因の一端はあるかもしれない。

筆者は、農家は「ものづくり」に専念してもらい、小売業は「販売は俺たちが担う!」という志を持ってほしいと願っている。プロフェッショナル同士が互いを高め合う関係を築いてほしいのだ。だから、農家を都会に引っ張り出すマルシェは、もうほどほどにした方がいいと思う。農家が販路に希望を見出すとしたら、「気概のある八百屋」と付き合っていくべきなのだ。

執筆者プロフィール

菅 慎太郎(株式会社味香り戦略研究所) 

株式会社味香り戦略研究所味覚参謀、口福ラボ代表。味のトレンドに特化したマーケティングの経験を生かし、大学での講義や地方での商品開発や地域特産物の発掘、ブランド化を手がける。
キッズデザインパーク講師。日本味育協会認定講師。

<記事提供:食の研究所
JBpress、現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
食の研究所はこちらhttp://food.ismedia.jp/

食の研究所 バックナンバー

おすすめ記事

関連タグ


メルマガ登録はこちら