レポート

10年後、外国人客が日本人口の半数に。需要は地方に向かう~『FOODIT TOKYO 2019』レポート(前編)

2019年10月15日

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カフェ・カンパニー株式会社
代表取締役社長 楠本修二郎 氏

「経営者として価値の拡大は当然の活動です。ただ、時代は多様性の社会へと変化しています。売上を最終目標にしない、事業を通じた社会貢献、地域を盛り上げたいという意識をもった事業に共感が集まれば、それは新たな価値です。これからは多様な価値観を受け入れる時代になっていくと感じています」

楠本氏は2016年のFOODIT TOKYOで、近未来の飲食店の役割は、リアルな経験価値を高める場になると述べている。その場作りとして例に挙げたのが、スペイン・バスク地方のサン・セバスティアンにおける「美食倶楽部」だった。

人口18万人の小さな町にミシュランの星つきレストランが林立し、「世界一の美食の街」と呼ばれるサン・セバスティアンは、世界中から観光客がつめかける。地域の食文化レベルを押し上げているのが美食倶楽部と呼ばれる会員制のコミュニティで、現地に120以上存在する。会員はプロの厨房をシェアして好きな時に好きな料理を作る。相席で利用するキッチンには一流シェフも訪れ、レシピもシェアするため、町全体の食のレベルがあがるのだ。

今回はこのシェアキッチンの仕組みを日本にも広める活動を行っている、美食倶楽部ネットワークFounder/食べる通信リーグ理事・本間勇輝氏が登壇した。

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美食倶楽部ネットワークFounder
食べる通信リーグ理事 本間 勇輝 氏

本間「美食というとマッチョな響きですが、本質は美しい食で、この活動は非常に脱マッチョだと思っています。東京・六本木で美食倶楽部をはじめると雑誌編集者や東大教授、住職、さまざまな肩書きの人たちが集まりました。

名刺交換もせず、まな板を前にして魔法にかかったように一瞬で仲良くなるんです。お金を払ってサービスをもらうだけでは飽き足らない時代の変化もあるのでしょう」

サン・セバスティアンの美食倶楽部は町の価値を高め、世界中の人を呼んでいるが日本の場合はどうか。取り組みは始まったばかりだが、本間氏は厨房のシェアが食のゲートウェイのようにひとつのメディアになることを考えている。

本間「消費者みずからが調理することで、改めて食材やその生産者に興味をもつ、この循環を作っていきたいんです。たとえば食材の生産者との出会いの場として、使った食材で気に入ったものを直接お取り寄せしてもらう。多くの飲食店で仕入コストをどう下げるか悩まれていると思いますが、源泉である生産者にしわ寄せがいかない仕組みも脱マッチョに必要なことです」

楠本「私は美食倶楽部のようなアジトを地方に作りたいと、言い続けてきました。今後は、地方の食を体験したいと思うインバウンド含めたお客様ニーズに対し、このような仕組みが非常に重要になってきます。ここで大事なのはいかに儲けるかではありません。いかに素敵な体験をシェアするか。新たな価値を生む地域活性化の可能性を秘めた、ビジネスモデルの構築に注目していますし、一緒に楽しんでいます」

2016年の未来総研から「10年後、地方にチャンスが生まれる」と指摘していた楠本氏。今回の未来総研では、「地方」をキーワードに未来の飲食店の可能性を探った。

時代の潮目は地方にあり。枠組みにとらわれない未来の飲食店の姿

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毎年、各界のカリスマ経営者が未来に向けた提言を行うクロージングセッション「未来総研」。なぜ今、地方なのか。地方が未来の外食にどうつながるのか、楠本氏は改めて示した。

楠本「人口7000万に満たないフランスは年間約8900万人以上の観光客が押し寄せ、人口約5000万人のスペインでも8000万人を超えています。人口が減ってもインバウンドで海外から人を呼び込めば、経済的な価値は少し下がるかもしれないけど国は豊かです。特に地方がどんどん盛り上がれば、インバウンド人口だけでなく滞在日数も重なり、それだけ消費活動も増えます。地方への誘客は今後より顕著になるでしょう。

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有限会社はたやま夢楽
代表取締役社長 小松 圭子 氏

人口が減少する今後、食を中心とした顧客との関係性やコミュニティの構築が、さらに重要になるという提言の事例として登壇したのが「はたやま夢楽(むら)」の代表取締役社長・小松圭子氏。高知県の希少地鶏「土佐ジロー」で、人口20人の限界集落に年間3000人の観光客を呼ぶ。

小松「携帯の電波も水道もない山奥の、周囲には消滅した集落がいくつもある場所で、養鶏と加工販売、食堂と旅館業をしています。田舎は消滅すべきとは思いません。ずっと暮らしていきたいので、農業と畜産で人を呼ぶことを考えて10年取り組んできました」

「はたやま夢楽」でしか味わえない地鶏の希少部位を求め、国内外から集まる観光客。食材を求めミシュランの星つきレストランのシェフが訪ねてくることもある。自然豊かな環境を目当てにするリピーターも多いという」

インバウンドも訪日回数を重ねると、ニーズは繁華街歩きより、四季を体感したい、と自然を求める傾向にある。これを提供できるところは強いだろう。

楠本「食をテーマに設定すると、一期一会の体験を提供できます。これから旅のあり方はアンディスカバー、未発見の魅力に自ら触れることができる場所に向かうのではと考えています。便利じゃないことが逆に価値になる可能性を秘めた未来です」

名所「天の橋立」で知られる京都・丹後。人口10万人に対し年間600万人の観光客が訪ねるこの地で、伝統的な酢造りを守り続ける飯尾醸造五代目の飯尾彰浩氏は「天の橋立に何度も行きたい人はそういないが、食はリピートが生まれる」と語る。酢の醸造のかたわら築130年の古民家をレストランに改装し、東京から招聘したシェフと共に酢をフックにした様々なメニューづくりを試みている。

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飯尾醸造
五代目 飯尾 彰浩 氏

飯尾「私は“丹後を日本のサン・サバスティアンに”をスローガンに掲げていますが、実際にモデルにしているのは隣のゲタリアという漁村です。小さな海辺の村にある2軒のレストランを目指して、世界中から観光客が集まる事例がすでにあるんです」

チャンスや可能性と同時に、課題もある。特に労働力の確保は都会以上に難しい。都会には地方移住に関心の高い若者も多いが、実際に移住まで至らないのが現状だ。

楠本「移住に至らないのは彼らが望むのが、東京と同じくらいか少し低いくらいの給与でクリエイティブな仕事という前提だからです。まだ地方の豊かさに実感がありません。

飯尾「経営者はどうしても東京に、と考えがちですが、地方のほうが実は豊かだと早く気づいた人が勝つと思います。地方に暮らすものの視点ですが」

交通網や物流の発達、テクノロジーの進化で地方と都会の体感的な距離は縮まっている。資金集めもクラウドファンディングなどで地域を超え、投資家以外から募ることも可能だ。都会より先に人口減少社会を迎えている地方に目をむけることは、5年、10年後の日本全体の未来を考えることに他ならない。FOODIT TOKYO2019レポート後編では、今回のもうひとつのキーワードだった「サステナビリティ(持続可能性)」を提言に盛り込んでいた3セッションをお届けする。


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