食の研究所

お酢はいつから「健康によい」調味料になったのか?~調味料の名脇役「お酢」の歴史と科学(前篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2017年05月17日

食べものの味を保つという機能がお酢を使う習慣を広めたのは、間違いないだろう。魚介類や野菜などを酢漬けや酢締めにしたのは、主に腐るのを防ぐためだ。

また、鯖、鯵、鰯などの強い生臭さを和らげる働きもある。これらの魚を煮るとき、最後にお酢を入れて生臭さを消す「酢煎(すいり)」という調理法が、室町時代にはすでにあった。室町中期にまとめられた料理書『四条流庖丁書』には、「鯉ニテモ鯛ニテモ差(サシ)ミノ如ニ作リテ……煮テ参ラセザマニ酢ヲ指シテ参スル也」とある。

一方で、もう1つの機能的側面、つまり、お酢が体の健康によいということについては、少なくとも江戸時代には、さほど説かれていなかったようだ。

たしかに、1697(元禄10)年刊の本草書『本朝食鑑』の「酢」の項目には「諸瘡腫、積塊を消し、痰水、血病を逐ひ」とあり、腫れものや腹内のできもの、また水毒や血毒などによる病気に効果的としている。だが、1712(正徳2)年に刊行された百科事典『和漢三才図会』の「酢」の項目では、「多く食えば筋骨を損す。亦、胃を損す」などと、摂りすぎの不益も説いている。

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寺島良安著『和漢三才図会』「酢」の項目。(所蔵:国立国会図書館)

明治時代以降の新聞記事にも当たってみた。古いところでは1937(昭和12)年2月22日付の読売新聞で、細菌学者の前田稲四郎が「少量の酢は人によってよく食欲増進の役目を果たします」と述べている。また1963(昭和38)年の同紙では、酢が疲労回復によいことを、法医学者の秋谷七郎が説いているところとして紹介している。いわく、米に含まれる珪酸が引き起こす動脈硬化を防ぐのに、お酢を飲むとよいとしている。

江戸時代に「医者殺し」などと評された味噌などに比べると、お酢の健康効果への注目や関心は新しめのようだ。

だが、だからこそ、現代の科学によって、お酢の機能性が次々と明らかにされているのではないか。そうしたことに期待をしつつ、後篇ではお酢を巡る研究に目を向けてみたい。

後篇へ続く)

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
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