食の研究所

長寿にも関連? 日本人の腸内環境は独特だった ~メタゲノム解析に便移植も、注目される細菌たちの働き

佐藤 成美(サイエンスライター)  2018年10月12日

食べ物の栄養素と水分の約8割は小腸で吸収され、残りかすは大腸に送られる。大腸は、その残りかすを一時的に蓄え、余分な水分をさらに吸収してほどよい固さの便をつくる。便は、消化しきれなかった残りかすでできているというイメージがあるが、便の約60%は水分、約20~25%は腸壁細胞、約10~15%が腸内細菌の死骸などで、残りかすはわずか5%にすぎない。

人体にはヒトの細胞数より多くの腸内細菌がいる

消化管には約1000種類、数百兆個にものぼる細菌叢(さいきんそう:細菌の集団)が存在する。私たちの体をつくる細胞は約37兆個だが、それをはるかに上回る数の細菌が消化管の中にすんでいることになる。中でも大腸には、圧倒的に多くの数や種類の腸内細菌が存在し、小腸で消化、吸収されなかった残りかすを利用している。たとえば、ヒトは食物繊維を分解する酵素を持っていないが、大腸で腸内細菌がせっせと分解しているのだ。

分解の過程では、さまざまな物質がつくり出される。腸内細菌には、生体に必要なビタミンなど有用物質をつくり、感染防御や免疫などにも関わるものもいれば、毒素や発がん物質など有害物質をつくるものもいる。これらの代謝物質が体内に吸収され、ヒトの健康に影響を与えていることが明らかになっている。

細菌のバランスが重要、「便移植」の試みも

腸内細菌にはヒトにとって有用な細菌もいれば、有害な細菌もいる。さらに、日和見菌といってふだんは何もしないが、体が弱ったときには悪さをする細菌もいる。腸内の環境を保つには、このような多様な菌が存在し、まわりの細菌と相互作用することが必要だ。

たとえば、有害な細菌を排除し、有用な細菌だけを残したとしても、私たちにとって有益な状態にはならない。健康でいるためには、多様な細菌が存在し、そのバランスが保たれていることが重要なのだ。

さらに、個人には特有の腸内細菌叢が存在し、そのバランスはかなり安定していることが明らかになっている。ヒトは無菌状態で生まれてくるが、出生すると体内に細菌が入り込み、すみつく。その後その人にとっての細菌叢が定着する。そして腸内細菌叢は年齢とともに変化し、安定した成人型から加齢とともに老人型になっていく。加齢とともに増加する細菌が老化と関わっていると考えられている。

さらに、腸内細菌叢は肥満や糖尿病、炎症性腸疾患、自閉症などの疾患と関連することが明らかになっている。これらの疾患では健康なヒトと異なる種類の菌や組成からなる細菌叢が形成されており、腸内細菌叢の破綻が腸壁細胞に作用し、疾患に影響しているといわれる。

執筆者プロフィール

佐藤 成美(サイエンスライター) 

佐藤 成美(さとうなるみ) サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。

<記事提供:食の研究所
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