食の研究所

長寿にも関連? 日本人の腸内環境は独特だった ~メタゲノム解析に便移植も、注目される細菌たちの働き

佐藤 成美(サイエンスライター)  2018年10月12日

マウスによる実験では、肥満マウスと正常マウスでは腸内細菌叢が異なっていた。そこで、肥満マウスの腸内細菌叢を正常マウスに移植すると、体脂肪量が増えた。

また、2型糖尿病の研究では、人種や食事の違いにもかかわらず、2型糖尿病患者に特定の腸内細菌種の変化が見られた。

2016年には順天堂大学で潰瘍性大腸炎の治療に、便移植による腸内細菌療法の有効性が示された。これは抗菌剤により患者の腸内細菌叢をリセットし、さらに健康な人の便から取り出した腸内細菌叢を腸に移植するというものだ。副作用の少ない便移植は腸疾患ばかりでなく、糖尿病など他の疾患の治療にも有効ではないかと期待されている。

日本人の腸内細菌叢、有能な特徴が明らかに

近年では、科学技術の進歩によって、腸内細菌の全体像が飛躍的に解明されつつある。現在行われているのは「メタゲノム解析」といい、便から腸内細菌のDNAをまるごと取り出し、網羅的に解析する方法だ。

早稲田大学など共同研究グループは、このメタゲノム解析により、日本人の腸内細菌叢の特徴を解明した。研究グループは、日本人の腸内細菌叢の大規模な解析を行い、そのデータを欧米や中国など11カ国のデータと比較した。

すると、国ごとに特徴的な細菌叢が形成されており、日本人の腸内細菌叢は、代謝機能などの生体に有益な機能を持つものが多く含まれていた。このことが、日本人の平均寿命の長さや肥満率の低さに関連するのではないかと示唆されている。

また、日本人の約90%の腸内細菌叢には、海苔やワカメに含まれる食物繊維を分解する酵素の遺伝子が含まれているのに対し、他の国では15%以下だった。どうやら、海苔やワカメを消化できる細菌が日本人の腸に多く存在しているらしい。

このような腸内細菌叢の特徴は、食生活や生活習慣を反映していると考えられるが、食事情報と腸内細菌叢のデータの関係は一致しなかった。腸内細菌叢の形成には、食事以外の要因も大きいらしい。

消化管に定着した細菌叢を変えることは難しいが、食事によって有用な菌のはたらきを活発化させることはできそうだ。そのために多く摂取したいのは、腸内細菌が利用する食物繊維やオリゴ糖である。食物繊維は便通をよくするだけでなく、腸内細菌が食物繊維を分解してできる物質が肥満を抑えていることも明らかになっている。

普段はあまり意識しないが、消化管の仕組みや腸内細菌の作用を理解することは健康への第一歩かもしれない。腸内細菌とは仲良く付き合っていきたいものだ。

執筆者プロフィール

佐藤 成美(サイエンスライター) 

佐藤 成美(さとうなるみ) サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。

<記事提供:食の研究所
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