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なぜ太くなる? 大根の謎をゲノム解析で明らかに ~白くて太い野菜の多様性に迫る(後篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2018年12月07日

三井氏も、遅咲き品種にはこのFLC遺伝子が何かしら関わっていると考えた。FLC遺伝子が変異を起こして働かなくなっていれば、低温で開花する仕組みはなくなるはずだ。

「普通、植物はFLC遺伝子を1個持つのですが、ダイコンではゲノム3倍化があったためFLC遺伝子を3個持っています。研究により、このうちの1個が変異することが、遅咲きになる主な原因のひとつだと分かりました」

大根の遅咲きを導く主要な遺伝子変異を特定した。この成果は大根の品種改良にもつながりそうだ。

「日本では、遅咲きの品種を作るにあたり、ハマダイコンという野生種の遅咲き個体を交配してきました。でも、ハマダイコンの根は太らず、かつ硬い。交配させると、この特徴の原因となる遺伝子も、作物品種に入れることになってしまいます。遅咲きの遺伝子を特定できたので、この遺伝子だけをピンポイントに入れれば、よく太って品質のよい遅咲きの品種ができるようになると踏んでいます」

野生種の謎を巡る議論、決着へ

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ダイコン。学名は、Raphanus sativus var.
raphanistroides 。(画像提供:三井裕樹氏)

大根の多様性を探るうえで、近年もうひとつ、大きな進展があったという。三井氏が上で触れた、野生種ハマダイコンの“位置づけ”が定まってきたのだ。

ハマダイコンを巡っては、「栽培種が野生化した種だ」とする説と、「もとから野生の種だ」とする説があり、研究者たちは議論してきた。

「近年の研究によって、ハマダイコンはもとから野生の種だったことが明らかになってきました」と三井氏は話す。これは、ゲノム解読完了によって多くのDNA情報を用いることができるようになったことが大きい。

「いま話した遅咲きの品種もそうですが、多様な品種が作られる過程でハマダイコンが貢献してきたことが知られています。実は、根の形がまるで違う桜島大根もハマダイコンの遺伝子を持っているのです。ハマダイコンを栽培していると、突然に大きな大根ができたこともあります。大根の多様性をもたらすさまざまな要因を、野生種のハマダイコンが持っているわけです」

三井氏によると、ハマダイコンが作物品種の祖先であるのかは未解明だ。だが、もとから野生種だったのであれば、大根の作物品種の多様化に深く大きな影響をもたらしてきたとも考えられる。大根の多様化の解明が、この野生種からも進んでいきそうだ。

ハマダイコンの学名についている「sativus」は「栽培化された」の意味を持つ。「分類学的には、これまで栽培種の変種とされてきたわけです。解明が進めば、学名も変わるかもしれません」。

野菜として古く、植物種として新しい

ダイコンという生物そのものが持つ「多様化しやすい要因」もあるのだろうか。三井氏はこう説く。

「野生種と栽培種は、分かれてから時間が経つほど混ざりにくくなります。でも、ダイコンの野生種と栽培種は、分かれてからの時間がまだ短く、遺伝子的な差がさほどありません。交雑による進化が起こりやすい植物であるといえます」

私たち人間にとっての大根の歴史は、野菜のなかでも古い。だが、進化する生物としての大根の歴史はまた別もののようだ。

最後に三井氏は、大根への思いを語ってくれた。

「日本が誇る野菜植物です。地産地消の動きの中、いろいろな地域でそれぞれの品種の生産量が再び増えていくといい」

大根の多様性は、人間の営みの結果として生じたものといえる。だが、生産効率を求める今日、大根といえばもっぱら青首大根となった。廃れゆく品種もある。

大根の多様性を保つには、もはや意識的な取り組みが必要となった。社会の求めと研究の進歩が相まって、科学の知見が生かされる機会も増えていきそうだ。

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
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