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捕鯨論争を巡る「賛成の正義」と「反対の正義」~『おクジラさま』から「理解」のための学びを得る

漆原 次郎(フリーランス記者)  2019年02月18日

それぞれの主張の根拠が基本的な考え方の違いからくるものとすると、ズレの根深さはとてつもない。「伝統だから」はとうてい理解されそうにないし、「残酷だから」もなぜクジラやイルカだけがと疑問を抱かせる。

最初で最後の対話も歩み寄りなく

賛成派と反対派が、一度だけ太地町で相まみえたことがある。2010年、政治団体が企画した「対話集会」に、太地町の町長や副町長らと、自称環境保護団体シーシェパードのメンバーらがともに参加したのだ。

集会では、町側が「苦しみを与えず一瞬で捕殺することができております」と捕殺の改善を述べるが、そもそもシーシェパード側は「クジラの捕獲や虐殺は、野蛮で非文明的です」と言っており、やはり主張がズレる。

象徴的なシーンが最後のやりとりだ。シーシェパードのメンバーが町長に尋ねる。「太地町が前進するために、私たちシーシェパードに何か手伝えることはないでしょうか」。

町長は答える。「太地町の町のことは太地の町民が決めることであり、他の人が決めることではありません。あなたたちが住民として登録されてから考えることです」。

町側がシーシェパードの提案をはねのけているように感じられる。だが、平穏だった町にこの自称環境保護団体が突然やってきて、漁の妨害や嫌がらせを続けてきた経緯からすると、こうした反応も無理からぬことだ。威圧は隔たりを作り出す。

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「古式捕鯨発祥の地」を謳う、和歌山県太地町。

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
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