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神事にしきたり、ワカメと絡み合う日本人の食生活~日本の縁深き海藻、その歴史と現在(前篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2019年03月14日

口開けを迎えると漁村は活気づいた。三重県の民俗研究家だった上村角兵衛は、雑誌『民間伝承』の1969年10月号に「口開けの日は、村の過半が浜へ出るので、夕刻には若布の匂いが村中にひろがる。生のメカブが、お寺や海へ出ない家へ、近しいものから配られる」と描写している。限りある自然の恵みを使うことの喜びと感謝の心を、人々は抱いてきた。

炙る、つける、吸い物に入れるもまたよし

食材としてのワカメの価値は、やはり保存性にあったのだろう。収穫後、放っておくとワカメは溶けていってしまう。そこで、長持ちさせるための方法がいくつも考えられた。

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鳴門の灰干しワカメ。灰をつけることで、
吸水性を高めたり、葉と葉の付着を防いだりして、
乾燥の効果が高まる。

まず、乾かすこと。素干しもあるが、材料を使う点で特筆すべきは「灰干し」だろう。
江戸時代の終わり頃、鳴門地方(今の徳島県)で考案されたもので、浮世絵師の暁鐘成が記した『雲錦随筆』には、「灰を糢(まぶ)し干乾したのを灰干の和布と号する。幾許の年を重ねども湿ることなし。用ゆる時は熱湯をかければ忽ち和(やわらか)くなり、色よく味わいも美なり」とある。

また、塩蔵もワカメの保存法のひとつだ。海産物を塩蔵することは日本では1000年以上前からされてきたといわれ、もちろんワカメもその対象となってきた。生ワカメを塩漬けする方法に加え、現代に入ると1965(昭和40)年頃から、湯通ししたワカメを塩蔵する方法が編み出され、これが今の塩蔵法の主流となっている。

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『和漢三才図会』巻第97「水草 藻類 苔類」
の分類にある「石蓴(わかめ)」の項目。

食べ方にも目を向けよう。考古学者だった樋口清之は、もともとワカメは味噌の一種の醤(ひしお)や酢などをつけて食べるぐらいのものだったと述べている。その後、室町時代に茶懐石料理として、さまざまな野菜と煮あわせたうえでワカメを盛りつける料理が登場した。

江戸時代中期の1712(正徳2)年に寺島良安が著した百科事典『和漢三才図会』には「石蓴(わかめ)」の項目がある。「炙り食ひ、又、刻みて醬油に蘸(ひた)し、或は臛汁(あつもの)に入るるも亦佳し」とある。「臛汁」は野菜な魚などを入れて作る熱い吸いもの。炙る、つける、入れると、さまざまな食べ方が確立していたのだ。

気になるのは、今日の定番「ワカメの味噌汁」の誕生だ。これについては、少なくとも江戸時代にはすでに食べられていたようである。味噌汁そのものは鎌倉時代までに存在しており、それより前の平安時代から「味噌とワカメ」の組み合わせはあったという説もある。「味噌汁にワカメ」は早々からあっても不思議ではない。

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
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