食の研究所

「おいしい=快感」となる脳の仕組みは?~私たちの命を守る「おいしさ」のセンサー

佐藤 成美(サイエンスライター)  2016年08月19日

疲れたときに甘いものがおいしく感じ、汗をかいたときに塩分を含むものが欲しくなるのが、本能的なおいしさだ。

一方、子供のときには苦手だった食べ物が、大人になったらおいしく感じる、また、好物はおいしく感じるなど、食経験を重ねることでもたらされるのが経験的なおいしさだ。

経験的なおいしさは、人それぞれで基準が異なるが、本能的なおいしさは生まれながらに感じられる共通なものである。ただし、おいしさのメカニズムは複雑で不明な点が多い。おいしさを客観的に評価することも難しいのが現状だ

味は必要・危険のシグナル

私たちは普通、甘いものをおいしく感じ、苦いものはおいしく感じない。甘い、苦いといった味覚は、食べ物に含まれている化学物質の刺激が脳に伝えられて、識別されるものである。

味覚は「甘味」「塩味」「旨味」「酸味」「苦味」で構成されている。このうち、甘味、塩味、旨味は、食経験のない赤ちゃんでもおいしく感じる。甘味はエネルギー源の糖、塩味は生体調節などに必要なミネラル、旨味はタンパク質のもとになるアミノ酸や核酸、それぞれに由来する。つまり、甘味、塩味、旨味は、人体に必要な栄養素の存在を知らせるシグナルとなっている。

一方、苦味や酸味ばかりを好む人はいないし、赤ちゃんも苦味や酸味は嫌がる。腐ったものは酸っぱくなり、毒のあるものは苦いものが多いため、酸味は腐敗を、苦味は毒素の存在を知らせる味だ。これらの味は危険のシグナルになり、おいしく感じない。ただし、食経験を積んで、安全な食べ物だと認識されれば、コーヒーやビール、梅干しなどのように苦味や酸味のある食べ物もおいしく感じる。これが経験的なおいしさだ。

つまり、味は食べてもよいのか、悪いのかを判断するためのシグナルになっている。同じように、においや色なども食べ物を判断するための重要な情報だ。人は本能的に人体に必要なものをおいしいと感じ、人体に害のあるものはおいしく感じないようになっている。おいしく感じれば、もっと食べようとするし、そうでなければ、食べるのをやめる。

人類の歴史をさかのぼれば、食べることは命がけの行為だった。せっかくの獲物でも、毒が含まれているものを食べたら、命を落とすかもしれない。食べ物を見分けるために人類はこの能力を身につけたのだろう。

おいしさは食欲を刺激する

私たちがどのようにおいしさを感じ、食欲をわかせているのかを、もう少し詳しくみてみよう。

執筆者プロフィール

佐藤 成美(サイエンスライター) 

佐藤 成美(さとうなるみ) サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『「おいしさ」の科学』(講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

<記事提供:食の研究所
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