基本の食品衛生

食の安心・安全対策で飲食事業者がすべき衛生管理と情報管理

2021年05月21日

食の安心・安全対策で飲食事業者がすべき衛生管理と情報管理

飲食店やホテルなど、食事を提供する事業者が食中毒やアレルギー事故を起こせば、消費者の命に関わるだけでなく企業やブランドイメージの悪化につながってしまう。日頃から食の安心・安全という健康に直結するテーマに取り組むことは何より重要だ。特に新型コロナウイルスの感染症対策なども含め、飲食事業者の対応はいっそう注目されている。

事業者の売上や集客、経営自体にも関わる「食の安心・安全」とは何か、なぜ必要なのか、どう取り組めばよいかを解説する。

食の安全に関する事件と取り組み

日本での食を取り巻く現状や課題を振り返ると、冷凍食品への農薬混入や牛海綿状脳症(BSE)、生肉の食中毒、廃棄食材の使用、サプリメント食品の健康被害、食材の産地や品種などの偽装、カップ麺や缶詰などへの虫の混入、コンビニや飲食店従業員の不衛生なふるまいなど、様々な社会問題が発生し話題になった。こうした事例の蓄積で、消費者の食に対する安心・安全意識は高まっている。

内閣府や各省庁は、以前から食の安全性を高めるための様々な取り組みを行なっている。しかし日本で発生した食中毒の事件数は、近年下げ止まりの傾向にあることを受け、 2018年に食品衛生法を改正し、すべての食品等事業者にHACCP制度の導入や、食品リコールをする際の自治体への届け出義務化、食品用器具・容器包装の材質規制などの大がかりな措置をとった。

食中毒事件・患者数の2021年-20年推移(厚生労働省)

日本の食中毒発生状況
[参考]食中毒統計資料(厚生労働省)

「安心」と「安全」は似て異なるもの

食の安心・安全と並べて使われることが多いが、2つの言葉はそれぞれ別の意味をもつ。

まず食の安全とは、科学的な根拠に基づく判断が求められるもの。農林水産省などの公的機関が明確な基準や数値を定め、客観的に捉えられる。一方で、食の安心とは、消費者一人ひとりの心理的な判断による。科学的な安全基準を満たしていても、個人的な経験や知識から安心できないと感じる場合もある。たとえば、過去にその食品を食べてお腹を下したり気分が悪くなったりした経験があれば、大丈夫だと説明されても食べる気になれないだろう。

食の安心・安全に必要なのは、科学的根拠と消費者の信頼獲得の両方だ。飲食店などの事業者は、安全に加えて、法令を遵守し食品による事故や事件を起こさない、産地や原材料を明記する、メニューごとの食物アレルギー情報を提供するといった、消費者の視点に立った、安心して食事を楽しめる要素が求められる。

飲食店が取り組むべき食の安全対策~安心して来店していただくために

食中毒を起こすハザード(危害要因)は、以下の3つに分類されている。

生物的要因 ウイルスや細菌、微生物、寄生虫など
化学的要因 魚介毒やカビ毒、重金属、農薬、食品添加物など
物理的要因 鉱物などの異物や放射性物質など

 

このようなハザードを回避し、安心して食事できる環境を整えるために、飲食店やホテルなどの事業者はどのような対策を取るべきだろうか。ここでは設備、食材、従業員の3つの衛生管理について紹介する。

(1)設備の衛生管理

■厨房・調理器具

食品を扱う事業者にとって、衛生管理は基本的かつ重要な業務になる。特に厨房は、提供するメニューを調理する拠点だ。厨房の衛生管理がなっていないと、食中毒などの問題につながりかねない。日頃から徹底した衛生管理を行い、清潔感のある環境の維持が何より大切だ。

汚れたままの作業台で食材を調理すると、それだけで菌が付着する可能性がある。天井や床にも目に見えない菌が溜まりやすく、人が歩くだけでもチリやホコリが舞う。定期的な清掃や消毒は欠かせない。飲食店によって厨房の構造は異なり、清掃が必要な場所も店舗ごとに変わる。大切なのは、どこに菌が溜まりやすくどんなルートを辿って食材にたどり着くかをしっかりと学ぶことだ。

食材が触れる包丁やまな板といった調理器具、冷蔵庫やフライヤーなどの設備も、常に清潔さを保つことが必要となる。 包丁やまな板は食材の種類に応じた専用化が望ましい。病原菌に汚染された肉から調理工程で、サラダなど生で提供する野菜に原因物質が付着してしまう交差汚染は、食中毒の大きな原因となっている。肉・魚・野菜用などそれぞれ器具を用意し色や形で分けておくと、他のスタッフが混同してしまう事態も防げるはずだ。

まな板に傷が付いていると、その隙間に細菌や水気などが入り込んでしまうこともある。毎日の洗浄や除菌に加えて、定期的な器具のチェックや交換を実施し清潔を保とう。 また、衛生管理を徹底している飲食店でも、冷蔵庫や冷凍庫の冷気吹き出し口の汚れ、冷蔵庫のファンやフライヤーのフード裏といった細かい部分は、盲点になりがちだ。取っ手は調理中だけでなく、仕入れ食材を入れる際にも多くの人が触れため汚れやすい。定期的な清掃が重要だ。

■フロア

不特定多数の消費者が入退場するフロアの衛生管理も大切だ。人が接触する機会も多いぶん、細菌やウイルスなどの感染原因となりやすい。テーブルや椅子は客の入れ替わりごとに清掃・消毒を行う、箸や取り皿はテーブルに常備せず、そのつど提供するといった対策が挙げられる。

特にセルフドリンクコーナーやトイレは、清潔な状態を保つためにこまめな清掃を実施する。営業時間中は清掃が難しい空調や換気設備も、閉店後などの時間を利用して清掃したいところだ。 また、新型コロナウイルスの感染対策が必須の昨今では、自治体が店舗内の消毒を要請している地域もある。

(2)仕入れ食材の衛生管理

飲食店では、食材の管理がおろそかだと多大なリスクとなる。特に肉や魚、野菜などの生鮮品は明確な消費期限が存在しない。傷んだり腐敗したりする前に使うのは大前提だが、匂いや見た目に異常がなくても菌が潜んでいる場合がある。そうしたリスクを抑えるためにも、現場任せにせず本部で使用期限を定め、それまでに必ず使い切らねばならないことを周知しよう。重要なのは徹底した日付管理と従業員教育だ。

たとえば食材毎の仕入れ日や開封日を把握し、廃棄予定日が過ぎた食材はすぐに廃棄するといったルールを設ける。複数のスタッフでも管理できるよう、シールや梱包などの目につきやすい場所に日付を掲示しておくと分かりやすい。

様々な生鮮食材を一括で管理すると、生肉の菌が野菜に付着するといったリスクもある。安全対策として、肉や魚、野菜などのそれぞれの保管スペースを決めておきたい。

食材はアレルギーなどの情報管理も重要

食の安心・安全につながる要素のひとつに、消費者への情報提供がある。特に近年は社会的に食物アレルギーの危険が認知されてきているため、事業者はあらかじめ問い合わせへの対応方針を決めておくべきだろう。

飲食店で提供される和・洋・中さまざまな料理

食物アレルギーの対応方法のひとつに、メニューに含まれるアレルゲンの情報提供がある。しかし業態によっては、日々数多くの食材を取り扱い、すべての食品のアレルギー情報を管理するのが困難な場合もある。現実的な対策として、情報管理システムを導入するのが有効だ。

たとえば「BtoBプラットフォーム規格書」のような情報管理システムでは、仕入れ品ごとのアレルギー情報や原産国、栄養成分などの様々なデータを一括で管理できるほか、メニューごとに含まれる食物アレルギーも把握できる。特定のアレルギーや原産国の情報なども、検索機能を利用すればスムーズに見つけることが可能だ。

食品偽装問題をクリアにしよう

食材の産地や品種の表示で、もし一度でも偽装があれば、企業の信用は簡単に失われる。2013年に有名ホテルや百貨店の飲食店などで食品偽装が相次いで発覚し、社会問題となった。

海外産を国産と表示する、輸入牛肉を和牛と表示するなどの産地偽装は、消費者への優良誤認として景品表示法に違反し罰則を課せられることがある。現場の安易な気持ちや確認不足で食品偽装をしないよう、メニューや食材の表示は本部主導でルールを決めて徹底しておきたい。

(3)従業員の健康・衛生管理

食材や厨房などの衛生管理はもちろん、食材を取り扱う従業員の健康・衛生管理も必要だ。料理人やホールスタッフを介して菌やウイルスが食材に付着するケースもあるし、逆に設備の汚れや消費者からスタッフが原因物質を受け取ることもある。こまめな手洗いやアルコール消毒が安全対策には必須だ。アルコール消毒のみでは、爪の間などの細かい汚れは落ちにくいので、作業のたびに手洗いを実施するなどが重要になる。

消費者と接する機会が多い接客スタッフの手洗いは、休憩やトイレの後、1時間ごとなどルール化し徹底して習慣づける。風邪や嘔吐・下痢といった症状が見られる場合には、すぐ自己申告するようスタッフに周知しておく。勤務前の検温も、感染予防に有効な対策だ。

また体調だけでなく、従業員の怪我にも注意したい。手指の怪我は出血した箇所から黄色ブドウ球菌などの食中毒の原因菌が発生し、感染リスクが高まる。その場合は厨房に出入りしない、食材に関わらない業務にあたるといったシフト変更といった対策で回避しよう。

農業の食の安心・安全

中には不安や疑問を抱え、偏った認識を持ってしまうケースもある。たとえば、農作物への農薬使用は人体に有害という認識をもつ消費者は少なくない。現在の日本では科学的な根拠に基づいて

・厳格に使用基準が定められた「農薬の登録制度」
・残留農薬の基準が定められていない食品の販売を禁止する「ポジティブリスト制度」

などの制度が整備されている。

新たな農薬の開発には、薬効薬害試験や毒性試験、生体内の残留試験など様々な検査を経るためおよそ10年の歳月と数十億円にのぼる経費が必要といわれる。農作物の病気を防ぎ安定供給につなげるだけでなく、害虫などによる毒素の汚染を防ぐ用途もあり、結果として農薬が食の安全のリスク低減につながっている面もある。飲食店だけでなく消費者にも正しい知識を持つことを考える機会があっていいだろう。

2021年6月からHACCP制度が義務化

HACCP(ハサップ)とは、食品の安全性を確保するために開発された衛生管理の手法のこと。国際的な食の衛生基準として広く普及しており、アメリカやEUなどの国ではすでにHACCPによる衛生管理の義務化が進んでいる。日本でも、HACCPの義務化が2020年6月から始まり、1年間の猶予を置いた2021年6月から完全義務化となる。

※HACCP
食品の製造や出荷などの全工程において微生物や化学物質、異物といったハザード(危害要因)をあらかじめ予測・分析し被害を未然に防げること。問題が発生した場合、どの工程に原因があったかを追求できるなどのメリットがある。

しかし、小規模な飲食店事業者の中にはHACCP制度の義務化を知らないという声も多い。今後の衛生管理においては、HACCP制度への適切な対応が求められるだろう。

売上・集客に影響する食の安全知識

食の安心・安全への取り組みは、飲食店などの食品を提供する事業者にとって永遠の課題ともいえる。現代の科学技術や知見では、食品のリスクをゼロにすることが不可能だからだ。

ただし、食の安心・安全意識の低い飲食店に好んで通う客はいない。もし価格や料理の品質が同等の店舗がいくつかあるなら、消費者は食の安心・安全意識が高い店を選ぶだろう。新型コロナウイルスによる影響で消費者の目は厳しくなり、従業員の知識や行動は事業者の売上やリピート客の獲得にも影響を与える。従業員が正しい知識を持ち、消費者の疑問や不安を解消することは、店舗の信頼性を高めることにつながるのだ。新型コロナウイルスの感染拡大による逆境の中、消費者が飲食店に求めるものは何かを考え、経営に役立てていただきたい。

【参照文献】
食品の安全を守る仕組み(消費者庁)
食品の安全確保に向けた取組(厚生労働省医薬食品局食品安全部)[PDF]
食品の安全って何だろう~食品安全の基礎知識~(東海農政局)[PDF]
食品安全委員会(内閣府)
農薬の基礎知識  詳細(農林水産省)


BtoBプラットフォーム規格書

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