食の研究所

「ポリフェノールは体によい」はなぜ広まったのか~赤ワインを飲む口実にはならぬほど、含む食材は多種で豊富

佐藤 成美(サイエンスライター)  2020年03月24日

流行のきっかけは「フランス人の謎」への気づき

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パリの街角でワインを楽しむフランスの人びと。

ポリフェノールが注目されるきっかけになったのは、「フレンチパラドックス」という説である。フランス人は喫煙率が高く、肉やバターなど動物性脂肪もたくさん食べるのにかかわらず、心疾患による死亡率が低いというものだ。動物性脂肪の摂取量と心疾患の脂肪率の高さには相関があるが、フランス人はこの相関から外れていることが知られていた。

フランスのセルジュ・ルノー博士らは調査から、フランス人の心疾患による死亡率の低さは赤ワインの消費量と関係あることをつきとめた。動物性脂肪をたくさん摂取しても、赤ワインを飲んでいれば心疾患のリスクは高くならないと1991年に発表し、赤ワインブームが起きた。

その後、1994年、赤ワイン摂取によりLDL(Low-Density Lipoprotein:低密度リポタンパク質)の酸化が遅延したとする報告をきっかけに、赤ワインの動脈硬化に対する作用が次々と報告された。

動脈硬化とは、血管に柔軟性がなくなり血液が流れにくくなった状態のこという。心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしやすくし、生命を脅かす。動脈硬化の危険因子には脂質異常症、高血圧、喫煙、加齢などがあり、これらが重なるとリスクは高くなる。脂質異常がらみでの大きな要因はLDLだ。

ただし、LDLはそのままでは動脈硬化の原因にはならない。酸化され、変性すると、マクロファージによって粥状のかたまりになり、血管の内皮下に蓄積する。これが動脈硬化につながる。赤ワインのポリフェノールにはLDLの酸化を抑える効果があり、酸化を防げば動脈硬化を予防できることが示されたのである。

ポリフェノール研究で知られ、上記の赤ワイン摂取によるLDLの酸化の遅延を見出した東洋大学教授の近藤和雄さんは、「動物性脂肪をたくさん食べるフランス人の体内には、おそらくたくさんのLDLがあるはずだが、赤ワインのおかげで酸化せずに済んでいるのだろう」と話す。

作用機序が未解明ゆえ効果の程もはっきりせず

酸素は私たちが生存していくのに欠かせないものである。しかし、体内に取り入れた酸素のうち2%ほどは「活性酸素」になるといわれる。

活性酸素は、他の物質を酸化させる力の非常に強い酸素である。体内では、ウィルスや病原菌などを攻撃する役目を果たしているが、増えすぎると正常な細胞や遺伝子も攻撃し、酸化させてしまう。LDLを酸化させるのも活性酸素である。

体内には活性酸素から身を守る防御システムが備わっているが、歳をとるにつれてこの力は弱まる。すると、脂質の酸化やDNAの損傷などが起こり、動脈硬化のほか、心疾患や糖尿病、がん、認知症などの発症につながるのではないかと考えられている。

この活性酸素による酸化を抑える抗酸化物質として、以前よりビタミンEやビタミンCの名が挙げられていた。その後、それらに匹敵する効果がポリフェノールにあることが研究で明らかになり、さまざまなポリフェノールがクローズアップされるようになった。

だが、健康食品などで効果がさかんに強調され、広く知られるようになったものの、どうしてポリフェノールが健康によいのかが正確な情報として伝わるまでには至ってないようだ。

ポリフェノールの種類は多く、種類によって吸収や代謝のされ方が異なるのが研究の難しいところである。効果が分かったとしても、実際に生体内でどのような反応をして効果をもたらすのかといった作用機序の解明にまではなかなか至らない。そのため、現在のところ、どんなポリフェノールをどれくらい摂取すれば健康維持に効果があるのかは、はっきりと分かっていない。


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執筆者プロフィール

佐藤 成美(サイエンスライター) 

佐藤 成美(さとうなるみ) サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『「おいしさ」の科学』(講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

<記事提供:食の研究所
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